シバの水面 天竺夜話3
彼は、二つの故郷はいらないといいながら、自分が仲間たちを救う力のいくつかが、自分が英国人だからだということには気づいていない。
多分、作者は気づいているんだと思います。
昔の神坂智子なら、主人公をその視点で留めておくことはしなかったと思います。
でも、この作品では、こうなのですね。
これは、神坂智子が、自分の思想や考えを登場人物に押しつけないぐらい余裕を持って物語をかけるようになったということか、それとも、その重たさに耐えきれなくなったのか、どっちだろう?
2つの祖国に引き裂かれる。
彼は、マハラジャでも何でもなくて、ただの盗賊団の下っ端。
多分、行きつく先にあるのは、喜劇ではないと思います。
でも、今は、笑っていよう。
今だけのことを考えて……。
小学館
発売日 : 2004-10-26
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あぁ。
「今日は『おてばん』の日」
とか思っていたら、長岡 良子を長岡 京子と打ってしまった……(笑)
ということで、時代は、南北朝に。
出てくる有名人が、足利 尊氏とかではなくて、佐々木 道誉っていうんだから、渋い(笑)
今までは、どうしても歴史のなかのシリアスな場面に出てこられなかった超能力者たちも、ちょっとずつ絡んできました。
ただ、やっぱり、力があると傍観者的な立場になってしまいますね。
このあたりの幻想と現実の絡め方は、神坂 智子のシルクロード・シリーズほど、上手にはいってないか。
「異聞竹取物語」が、自分的には、とっても気に入りました。
そうして、こんなふうに歴史の裏側をかけてしまうと、超能力者たちはある意味、いらなくなってしまうのかも。
カラーの絵を見ていると、「百億の昼と千億の夜」のころの萩尾 望都みたいな雰囲気です。
ストーリーは、最初の話とかは、山田 ミネコの「緑の少女」を思い出してしまいました。
あと、少女が一瞬で大人になっている「葦の原幻想」のテーマとかも、けっこう、似たものを感じます。
そして、短編連作で話を続けていって、狂言回しに超能力者(神)たちがいるというのは、なんだか、神坂 智子の「シルクロードシリーズ」を彷彿とさせます。
第1話が掲載されたのが、1984年だから、多分、その辺の作品のというか、作家たちの影響というのはあるのだろうと思います。
それでも、いろいろなものを吸収して、自分独自の世界をつくっているなぁというところは、好きです。
あとの話にでてくる史は、多分、藤原 不比等なんだろうなぁ。
あの人って、イメージ的に、恋をするような人ではないので、これからどうなっていくのかなども、気になります。
短編連作で、いろいろな角度から切り取っていくという形も、この物語にとてもあっているなぁと思います。
神坂智子の作品は、実際の歴史の中で展開していく物語が多いです。
代表作である「シルクロード・シリーズ」や、「T.E.ロレンス」、「蒼のマハラジャ」なんかもそうですし、マルコポーロの話もありました。
日本の話である「春・夏・秋・冬」1や、「べんがら格子の家」なんかもそうですね。
レディースコミック系の物語や、短編にちょっと違うのもありますが。
この人の物語のすごいところは、そういった歴史的な史実と物語の部分が、なんというか、すごく地続きに続いているところです。
今回の物語は、英国植民地時代のインド。
インド人として育ったイギリスの少年の物語です。
両方の目をもっているだけに、少年の心は揺れ動きます。
神坂智子の物語は、少年には弱さを、少女には強さをという感じでしょうか。
タージマハルの話なんかは、どこから史実で、どこから物語なのだろうと感心してしまいます。